藤沢駅から歩いて10分ほど、閑静な住宅地に佇む3階建てのビル、そこが聾や難聴のかたがたの支援を行っている、神奈川県聴覚障害者福祉センターです。
自らも聾者である所長の黒崎さんが、センターの歴史や役割、聴覚障害者の苦労などを、明るく楽しく話してくださいました。7歳で聴力を失ったにもかかわらず、その明瞭な話しぶりには驚きます。黒崎さん自身には自分の声は聞こえないのですが、失聴する前の喉の動きを覚えているので、話すことができるのだそうです。聾者は、外見上では健常者と見分けがつかないので、理解され難い障害だと言います。実際、黒崎さんも「黙って話を聞いているふりをしていても、気づかれない。話の最後に『わかりましたか?』と聞かれた時だけ、『はい』と言って頷けばよいのです。『わかりましたか』という口の動きは読み取りやすいですから」と、処世術を披露してくれました。しかし、大概の場合、聴こえていないということを、周りの人に解ってもらえないことと、コミュニケーションができないことが障壁になるのだそうです。
2007年から、聾者も自動車運転免許を取得することができるようになりました。聴覚障害を持った人たちが車を運転すると聞くと、危険率が高いように感じますが、実際の事故の発生率は、健常者となんら変わらないのだそうです。耳が聴こえなくても、他の感覚機能が研ぎ澄まされるので、ハンディを感じさせない生活ができるのです。特に視野に関しては、ほとんど後ろに目があるかのように広い範囲を把握できると言います。
また、センターでは、難聴や聾の子供たちに対する支援や、字幕ビデオの貸し出しなど、聴覚障害者の立場に立った様々なサポートを行っています。加齢に伴って聞こえが悪くなった方々の相談も受け付けますので、新規に補聴器を購入する際や、補聴器が合わなくて困っている場合にも相談してみると良いでしょう。機器を使用した聴覚検査のほか、言語聴覚士による補聴器の調整など、聴こえに関する幅広い相談に応じてくれます。
県内には聴覚障害者のための施設はここのほか、川崎と横浜にもありますが、目に見えない“音”を聞くための施設がもう少し身近にあっても良さそうに感じた訪問でした。
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