特別養護老人ホーム「世田谷区立きたざわ苑」が「おむつゼロ」を達成できたのは単なる偶然ではありません。竹内孝仁 国際医療福祉大学大学院教授の理論と指導、運営管理者の強い決断と意思、職員の理解と学習、近隣やボランティア、家族の協力、そして企業の貢献があったからこそ達成できたのです。その一つが「トイレでふんばる君」です。写真のような単純な形で、一見傾いた踏み台のようですが、何故これが「おむつゼロ」に必要だったのでしょう?
施設長の岩上氏は「おむつゼロを進めるためには職員が必要とするものは何でもそろえる必要があったし、そうするつもりだった」と当時を振り返ります。その中で浮上したのが、トイレで利用者の排泄を促進する仕掛けでした。「トイレでふんばる君」の上部の黒い部分はスライド式マットで、利用者が便座に腰かけてからマットをスライドさせ、利用者のおなかに当てます。すると腹圧がかかり、排便を促す仕組みです。その排泄促進効果は、腹圧だけではありません。腹圧がかかった状態で利用者が上体をマットにあずけると、お尻が浮いてお尻が開き、さらに排便が促されるのです。同時に利用者の安定感も増します。
これを考え出したのは岩上施設長と現場で働く職員たちでした。ホームセンターで部材を調達し、数台を手作りしたのです。そして、その製造を出入り業者の(株)東京ウチダシステムに依頼しました。(株)東京ウチダシステムは障害者雇用に先進的に取り組んでいる事務機器の会社で、営業の山本次長は「最初に岩上施設長から開発を相談され、実際にピラニア・ツールに請けてもらうまで、何社に断られたかわからない」と言います。
請け負ったピラニア・ツールの尾田社長は、何日も何日もきたざわ苑に通い、職員と同じ格好をして利用者を補助しながら、どうすれば効果的な用具が安く作れるかを模索しました。そして試行錯誤の末にこの「トイレでふんばる君」ができあがったのです。しかし尾田社長は部材を快く作ってくれる協力企業を見つけるのに大変苦労しました。なかなか引き受け手が現れず、思いあぐねていたところ、ある中小企業の息子さんが「俺が作る!時間外に作るので親父には迷惑をかけない」と言ってくれたことで、やっと製造にこぎ着けたのです。
この「トイレでふんばる君」は発売後1年半で、数百台が全国の施設に導入されました。そして改善を繰り返し、より使いやすくブラッシュアップされて、今日も利用者の自立を、縁の下ならぬ、トイレの隅で支えています。
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