訪問日:2011年05月16日
訪問先:移乗用ボード『らくらくボード』製造販売 ベクトル株式会社
3月にJプロジェクトが開催したジャンプアップ福祉フェアで好評だった『らくらくボード』。寝たままや座ったままの利用者をベッドから車いすなどに移乗する際に使う、いわば「渡し板」で、かわさき基準KISの22年度認証品だ。面白いほどよく滑る。福祉フェアでは丸椅子を二つ離して置き『らくらくボード』を渡して座ってもらい、その上を滑ってもらったが、皆一様に、そのスライド性に驚いていた。
実はこの製品、介護施設で働き始めた元自動車メーカーのモデラー矢崎氏の体験から生まれたもの。体力に自信があったものの働き始めて三日もすると、利用者を抱きかかえての移乗で、腕がパンパンに腫れあがり、このまま続けられるのだろうかと不安に思い始めていた矢先、部屋の片隅でホコリを被っている移乗ボードに目が留まった。職員に確かめると「使い方が分からないし、重いし、面倒だから使わない」と言う。それを聞いて、矢崎氏の「ものづくり魂」に火が点いた。そして編集や広報に携わってきた小山久枝氏と自動車デザイナーの大熊氏の同級生トリオで、新しい移乗ボードの開発に着手、ベクトル株式会社を設立した。http://vector111.com/
材質は車の内装材でよく使われる樹脂のFRP、表は滑りやすく、裏は滑りにくくするために、5層にした。130キロの重さにも耐えうる丈夫さ、適度な弾力性、そして薄くて軽い。片手でも扱えるので、上肢が動かせれば、利用者自身での移乗も可能だ。使い勝手の良さに重点を置いた“現場発想 のカタチ”はビーンズ、スネークなど用途に合わせて3種類あり、「高いスライド性と介助者の負担、介助される本人の負担を軽減する機能性が、自立支援へ寄与する」と、かわさき基準推進協議会の評価も高い。このボードのもう一つの特徴はボード本体に座位や方向、使いかたをプリントしている点。使用説明書と製品を一体化することで、利用者も介助者もいつでも使い方を確認できる。さらにデザインにもこだわった。ただの「板」ではなく、薄い生地に桜の花や愛犬の写真をプリントしたものを挟み込み、福祉用具にありがちな無機質さを払拭、使う楽しさをアピールした。オリジナルデザインや体型に合わせたオーダーも可能だ。
「介護をされる側は、負担を感じている。申し訳ないという気持ちが先に立つんです。介護する側が楽になれば、される側の気持ちも楽になるはず」と社長の小山久枝氏は言う。もともとは介助者の負担軽減から作られた『らくらくボード』だが、介助される側にとっても「心の負担」を軽減することに役立つ“共鳴板”『サウンドボード』なのかもしれない。
◆コーディネーターの視点
介護講習などではよく紹介される移乗ボードですが、施設ではほとんど使われていないのが現状。日本では精神論が先に立ち、福祉機器を敬遠する向きがあり、ノーリフトの発想が乏しいけれど、介護する人の健康を考えたら、移乗ボードは最も手軽で効果のあるツールかもしれません。ボードの普及で介助者の腰痛が減れば良いですね。
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